先日ニューヨークは眠らない街マンハッタンに、手前が高校一年生であった6年前に一度会ったきりながら、絶えず連絡を取り続けていたロシア人の友人を尋ねに行って参りまして、大変面白い経験を諸々して参りました。特に面白いのが、その友人が完全に、そして意図的にオクスブリッジアクセントに近い所謂英国式の発音で英語を喋る事でありました。悔しい事に背の高い美人である彼女が、少し気取ったような音にすら聞こえる事もある英国式の発音で喋ると、何やらそれはとても素晴しい物のように聞こえるのであります。日本語訛りではないとは言え、やはり特殊なアクセントが発音にある手前にとっては、大変羨しい発音でありました。頭が大変にキれる女である彼女との会話の面白い事と言ったら、例えようも無い物であります。特に今まで幾度となく感心していながら、更に再び感心させられたのは彼女のユーモアで、トランクをガサガサ漁っている手前に対して
友人: Do you need a hand? (手を貸しましょうか?)
手前: No, I rather want to have legs. (結構、寧ろ足が欲しい所だね)
友人: I have two long and beautiful ones? (長くて美しいのが二つあるけれど?)
なんて返答をしてきた時にはどうしようかと思いました。身長180cmと私より6cmも背が高く、見事なプロポーションを誇る美女に言われてしまえば、何如なる反論を為すのも只々無粋と言う物でしょう。今度は6年経たない内に会おう、と言い交したので、何とか現実にしよう、と思っております。
さて、そんな彼女に連れられてマンハッタンにある巨大な書店であるStrand Booksという書店に行きました(場所)。何でもストックの本を並べると18マイル(=28.8km)もの長さに達するというとんでもない場所で御座いまして。で、その巨大な書店の二階は殆どが芸術或は美術の本で占められております。そこで遂に発見したのがこのJ.C. Leyendeckerの画集で御座います。
そもそも手前がJ.C.Leyendeckerを知ったのはTwitter経由で御座いまして、ゲイ・エロティック・アーティストの田亀源五郎先生が呟いておられるのを見たのがきっかけでした。何でもこのLeyendeckerもゲイだったそうで、見事な絵の腕前を持ちながらゲイという事で業界を追われ、更にLeyendeckerの影響を強く受けた後継者とも言えるNorman Rockewllが殆ど彼の業績を上書きしてしまった為にとかく情報が少ないという非常に変わった経歴の画家だそうです。
ページを捲ってみて驚くのはそのとにかく独特の色使い。何処か艶やかさを湛えた男性逹の表情や体付きもさる事ながら、ハッキリと筆のタッチを残しながら、ある時は柔らかく、又ある時はパリっとした布のテイストを見事に書き分けているその腕前には只々見事と言うより他が無い程。左はLeyendeckerが描いた雑誌の表紙の内の一つで、普仏戦争(?)期のドイツ兵。しっかりとした顎のラインと鼻筋に見えるゲルマンの香り、何処か艶やかな色を湛えた肌の塗り、そして磨き上れた輝きを持つフリッツヘルムとそこに威風堂々の存在を誇示している金色に輝くプロシアの鷲。対照的に背負われた背嚢の布部はしっとりと艶消しになっていて、軍服との対比が面白い。
同じイラストの下半身部。ライエンデッカーの真骨頂とでも言うべき塗りと皺の表現。冷静になると明らかに線。露骨に見える程の線が描かれているんだけれど、それをトータルとして見た時に表われる皺のリズムとその色使いの鮮やかさ、巧みさ。どこまでもシャープでありながら布の厚さもしっかりと感じられる構成は、敢えてフィギュアで例えるのならアルパイン的な、余りにアルパイン的なと言うしかない表現を、嘘に見えないギリギリのラインで支えるこの巧さ。全体的に見たら大嘘で、軍服にこんな皺が落ちる訳が無いのはわかってる。もっと薄いスーツのズボンですらこんな皺は落ちない。それは大いにわかっている。だがそんな反応を乗り越えて「リアル」に見えるこの面白さ、素晴しさ。
総評としてはとにかく買いで御座います。全体的な塗りの傾向等はフィギュアペインティングで挑戦してみても面白いんじゃないかと思わせる空気もあるし。是非に、是非に。
じゃあ、今日はここまで