[写真] Glennview Halfbreedカメラレビュー

諸々あって一台大判カメラが増えたので、記録というかレビューを残しておきたいんですよ。おそらくこのカメラ、世界で1台か2台、どう多く見積もっても10台は製造されていないと思うので。というかハンドメイドに近い代物でして。

そもそもの前提条件として、大判カメラ選ぶのって色々面倒なわけで。どれぐらいのムーブメントが取れるのか、素材はメタルか、木がいいのか、速射性が必要なのか。ファクターは色々あるわけですが、重量ってのがかなり重要なファクターになるわけで。アメリカみたいに道なき道を車でバロバロ走っていって、ドカンとカメラを据えるならまだしも、本邦でそんなワイルドでロケンローなスタンスが早々許されることもなく。しかる故に、選べるならば軽いカメラを持ちたいと思うのが人情というもので。ましてや手前のように海外営業なんていう珍妙な仕事で日銭を稼いでいる身としては、できればカメラを出張先に持っていきたい。となれば軽さというのは、とにかく軽さを求めてさまようのは必定というわけです。

んで、過去に一度木製フィールドカメラ使ってたことがございまして。でもなんとなく華奢な感じがあったこと、アオリの自由度が低かったことで何となく体に合わなくて手放した過去が。その後テヒニカを入手して使っていて限りなく満足していたのですが、重い。重いんですよアイツ。完成度がべらぼうに高いのはわかるんですけれど。そんな中でイカしたカメラを発見、入手したところから今回のこのエントリに繋がるのです。

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Glennview/Sinar Halfbreedカメラ (長レール状態)

んで入手したのがこちら。Glennview/Sinar Halfbfreedカメラという代物。これ、構造としてはスイス製ビューカメラのSinar F/P系列のフレームに金属製のベース(Bearer)と木製のレールを備え付けた代物で。Halfbreedの名の通り、アメリカのカメラ屋のオヤジであるMr Glennが作った部分とSinarの混血ということです。

じゃあコイツの何が凄いの?ってなると思うんですけれど、まず軽量。とても軽量で可搬性は圧倒的。グラフロックバック足して長レールに載せた状態で4.5ポンド(約2kg)、短レールに載せた最軽荷状態で1.8kgしかない。比較対象として上げるならば、メタルフィールドカメラのMaster-Technika 3000で2.6kg、Toyo-Field 45A II Lで2.8kg、Wista 45SPで2.9kg。木製のフィールドカメラであるChamonix 45N-2でやっと1.5kgになり、ShenHao TZ45-IICは木製であるにも関わらず2.1kg。知る中で唯一機能と重量で直接的に比較対象になりそうなのは米K.B Canhamのメタル製カメラDLC2で、コイツがそれでも2.13kg。こう見るとやはりべらぼうのべらぼうにHalfbreedが軽いのがわかるってもんです。ちなみにCanham DLC2は28万円、Halfbreedは5万円ちょいなのでお値段考えるとCanhamはちょっと、となるのは否めないところ。

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短レール状態 (蛇腹無し)

これより軽量な、野外に持ち出せるようなビューカメラ(Halfbreedは間違いなくビューカメラとカテゴライズするしかないよね?)というと、TOHOのFC-45X ぐらいしかないんじゃないかと思っていて。重量1.4kg。とはいえFC-45Xはレンズボードは独自仕様だしレア度は高いしで実物にお目にかかるのが難しいという代物であるが故に、存在している(していた)とう以上の選択肢にはなり辛い。そんな中でジナーシステムと高度に互換性を保つこのカメラ、非常に魅力的でした。

フィールドカメラとビューカメラの利点を併せ持つカメラというのはおそらく大判カメラが追い求めて来たもので、フィールドカメラにビューカメラ的なムーブメントをもたせるベクトルに進んだのが例えばSuper-/Master-TechnikaやWista 45SP。ビューカメラを徹底的に軽量化する方向に進んだのがTOHO FC-45やK.B Canham DLC2だと思うんですよ。そのカテゴライゼーションとしてみると、このGlennviewは超軽量ビューカメラの系譜に、そしてその終末にいるんじゃないかと思います。

んで、このHalfbreedカメラのムーブメントはまさにビューカメラ譲り。むしろ最大の制約が蛇腹という状況なので、実質無制限と行ってもいいぐらいでございまして。それにくわえてヨーフリー。すなわち、余程変なことをしない限り前枠と後枠は常に平行を保つ。ピントグラスに引かれた線上はスイングをかけてもピントが移動しないので、前後左右のチルトで悩む必要もなし。

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左シフトをかけている状態。水平シフトだがレールの向きに注目。

フレーム自体左右チルトの回転各は90度ずつ。もちろん90度だと像写らなくなるけれど。前後もほぼ90度近くまで動く。これは強い。ただフレーム自体はこのチルト以外の可動域が無いので、ライズやフォールはレール自体を傾斜させたり正面でなく斜めに向けたりすることにより行う。一般的なビューカメラやフィールドカメラで行われる補助的な方法がメインになっているというか。これに慣れるのが少し難しい。とはいえ、結局アオリ抜きの正立状態で構図を決めてアオリで補正をかける、という基本を守ればそんなに問題になるものでもないとも言えるかしら。そういう意味ではよくできてるよなこのカメラ。

じゃあ完璧なカメラか?っていうとまたちょっと色々あって。一つはレールの長さ。短いのだとMAX150mm無限遠ぐらいまでしか対応できない。じゃあ長いレールだと?長過ぎるんだよね。非テレタイプ350mm前後まで使えるレールなんだけど、屋外、シノゴ、非テレタイプで300とか360使う時あるかっていうとやや悩み。レールは木製ベースに金属歯を仕込んであるので非常に軽量なんだけど、中間ぐらいの長さがあればよかったな、とは思います。

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370mmのレンズで無限遠を出しているところ。レールにはまだ少し余裕が。

更にいうと、フレームのベース(Glenn氏が作ったところ)にやや遊びがある。セルフロックであるが故に独立したロック機構を持たない構造である為に、この遊びを殺す方法が無いのよね。そうは言ってもレンズの自重でフレームが傾いたりすることはなさげ。耐久性はちょっとどうかわからないけれども。

※欧州中央時間1月26日10:30以下追記
加えて、もともとジナーF/P系列はBearerに水準器を備える構造のため、水平垂直がイマイチわからないのも欠点。これは別個に水準器を購入したので、これをフレームに取り付けてやれば解決する問題ではありますが。自由度が高すぎて結構グニグニ動くので、水準器はどうしてもほしいところ。

総評として言うなら、ムーブメント自由度や重量を考えるとフィールドカメラに対する利点は多々あるかと。でも独特なムーブメントのスタイルは軽いから!で飛びついて使うにはやや辛いものがあるような。Intrepidとかもっと軽いし。ジナーシステムが既にあって、モリモリムーブメントをキメたい!って人には最高だと思います。

じゃあ、今日はここまで。

大判カメラやるなら必携の一冊