[キットレビュー]Miniart “35086 German Civilians”

Veni vidi vici. 来た、見た、勝った。このミニアートの新作は、あのミニアートの新作は何如なる意味においても素晴しいセットとしか形容の方法が無い代物で御座います。まだ8月だけれども、恐らく、まず今年度中にこのキット以上に箱の中身に感動する模型には、2011年中には会うまい。そう言いたい。声を大にしてそう言いたいキットであります。

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箱絵。ミニアートのフィギュアのパッケージの例に漏れずA.Karaschuk氏の手による物。金髪の女性、チョビ髭のスーツを着た男、老婆、ヒトラーユーゲントの少年、そしてドイツ警察という組み合わせ。ドイツの”警察”がインジェクションされたのは初では?相変わらずKaraschuk氏の箱絵の色使いの素晴しさは文句のつけようがなく、白バックの箱絵ながらその裏に透けて見えるストーリーもまた見事。この箱絵を前にして中身がどうこう、なんて言うのは既に野暮だよ。ちなみに某所で受けた指摘としては左端の女性とその次のスーツの紳士はエヴァ・ブラウンと某アディに対してのパロディなのではないか、という事。で、あるならば噫素晴しきかなミニアート。

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警官の左手、胴体、そして足。腕に流れる皺のリズムと繊細さに驚き、警察徽章のモールドのクッキリとした彫刻に感銘を受け、スラリと伸びた手のラインに頷き、緩やかに終わる指の彫刻に膝を打つ。胴体を見れば制服がしっかりと警察独特の多ボタン型になっている事に気付き、斜めがけのベルトは上半身だけで陸軍所属では無い事を雄弁に語る。そしてチュニック裾ポケットにはプリーツ無し。何であれ警察チュニックをこのクオリティで作ってくれた事に感謝しか出てこないわけで。問題は警察徽章は野戦憲兵徽章、というか国防軍徽章とも親衛隊徽章とも違うって事かしら。タミヤのデカールセット3に期待。

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警察はヘッドコンパチ可能。シャコー帽とフリッツヘルムの選択式。よって頭部は二つ付属。顔は例によって例の如くТанкの原型師の方のシンボルが如き造形。ゲルマン系かと問われると大いに疑問で、寧ろスラブ男の顔の作りなんだけれども、では模型のヘッドとしては如何、と聞かれれば両手を上に突き上げ親指を立ててさぁ一緒に叫ぼう「Yes!」。

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そしてシャコー帽。シャコー帽!ドイツ官憲のシンボルにして異常なまでにパーツ化されていないシャコー帽がインジェクションで!正面のトップにつく縦楕円の円盤は別パーツ。警察徽章はトロけているように見えるけど実物は意外にそうでも御座いません。

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シャコー帽を側面から。この優美な曲線こそシャコー帽のシャコー帽たる所以ではないかと思う次第。目庇の薄さ、ボコっと立ち上がった中央の円筒部。そして目庇の上に乗たチンストラップのバックルのモールド。現地点での独警察シャコー帽オンリーワンにしてナンバーワンではないかしら。

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ヒトラーユーゲントの胴体と足のパーツ。胸元のスカーフの柔らかさと絶対領域を作りだす足の造形に注目。ソックスの折り返しも実にクリスピーに際限。ローファーも良い感じ。このヒトラーユーゲントは足だけでなく前進の造形が若干華奢に作られているのも芸コマ。

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ユーゲントのドタマ。異常に厳しい、苦味ばった顔の造形をシンボルとするこの原型師にしては珍しく優しいげな造形。放齢線のモールドが控え目になっているのは少年故か。髪の毛がドイツ人のシンボルのようになっているオールバックなのもツボを突いていて「わかっているねぇ」って感じ。目元もツルリと仕上げられていて若さの演出には成功していると思う。他のヘッドと比較してもサイズが一回り小さく、その点でも少年である、という主張を見る事が出来る。口元の何やら不満げにも見える造形に注目。元々フィギュアのポーズが「何か不審げに振り返る」という物だけにこの口元は嬉しい。本当に嬉しい。若干首元が太いような気もするけれど、マスターボックスのフィギュアのように「そもそも首が無い」という造形よりかはこちらのスタイルの方が個人的には好みかなぁ。いや、マスターボックスの造形も恐しい程出来が良いんで嫌いではまったくないのだけれど。

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女性の胸部と顔の造形。胸部に関していえば正にこの原型師の人の癖とでも言うべき皺の流れが向かって左の下の方に出ているけれども、彫刻は綺麗でしかも普段の兵士のフィギュアに対してやるソレのように良くいえば誇張された、悪く言えば余りにドラマチックな皺の入りにはなってなくて良い感じ。女性の顔の方に関して言うならば若干ゴツい。ただまぁホーネットの女性ヘッドが全体的にシュっとした美人系の面が多い事や、平野義高氏原型のロシア女子戦車兵のフィギュアが(スラヴ的顔立ちかは別にして)美人のヘッドを与えられている事を考えるとこれぐらいブサイクでもバランスが取れて良いのかもしれない。女性用のヘッドは選択肢少ないからなぁ。

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女性のスカートの造形。ドイツ兵の冬季コートと同じ流れだね。この原型師の人の癖はここにも雄弁に見てとれる。若干驚いたし上手いな、と思ったのはスカートの分割。右側に見えるようにスカートの中には足が無く、もっと言うならドラゴンGen2的アプローチの「足を含む下半身パーツに外装を貼る」という分割では無く、「前後に分割されたスカートの足元に『受け板』パーツを嵌め込み、それを土台として脛から下だけ造形された足パーツを接着する」という分割。まぁ合理的っちゃあ合理的よね。とはいえGen2的分割のアプローチなら可能だった「1/35ショーツを再現」ってのも模型的には面白いかと思うのだけれど。それが嬉しいかどかは別として。

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そして万難を廃してこのキットを買うべきなのだ、と声を大にして手前に主張させ、手前自信もそれを大いに受け入れる原因であるのがこの老婆のヘッド。老練な、余りに老練なこのヘッドの造形は一瞥を送っただけでクラリと来る事間違い無し。見よ頬骨から顎先にかけての痩せ衰え肉の落ちてきたラインを。目尻の下がり方を。秀でた額を。口元に湛えられた曖昧な、ネガティヴな笑みにもポシティヴな笑みにも解釈できる曖昧な造形を。それでいてその造形がドラゴンスマイルの如き酷い自体になっていない事の素晴しさ。そして髪型。無造作極まる、最早お洒落をどこかに置き忘れてきた、最早そこにあるだけの髪型。素晴しい。全く素晴しい。

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側面より老婆のヘッド。側面から見た所でその造形の素晴しさは些かも魅力を減じ得ない。矢張り頬骨がら頬にかけてのラインは正しく絶品で、目元から額のラインの老婆感も何ら正面から見た時と買わらず老婆。突き出た鷲鼻と僅かにシャクれてしまった顎、女性ながら肉が衰えたるんだ事によりハッキリと視認できる放齢線。実にお見事。この後ろに長された髪の毛の感じも寧ろ横から見てこその老婆っぷりと主張したい。耳元の造形が若干ヌルいのは画竜点睛を欠くような気分にさせてくれるけれども、そればっかりはインジェクションの限界でしょうがないと割り切る方が余程精神衛生上宜しいかと。とはいえこれならば髪の毛の生え際から耳にかけてを別パーツにするだろうGen2分割の方がキレイに出来たんじゃないかなぁ、などと思ってしまいますが。

総評として言えばとにかく、とにかく出来の良いキット。プロポーションに文句をつけるのも野暮だろうと思う。シチュエーションのセッティングも余りに見事。それは箱絵からも十分に見える。若い女性と老婆なんていう女性フィギュアが一箱に二体入っているのも嬉しいし、何よりドイツ警察のインジェクションフィギュアが一体入っているというのが本当に嬉しい。ヘッドの造形も冱えているし、買わない理由が無いんじゃないかな。良いから買え!

じゃあ、今日はここまで