[書評]Foundry Publications – “Foundry Miniatures Painting & Modelling Guide”

IMG_6908未だ自信を持って塗れる、と言えない物の一つに小スケールフィギュアっつうのがございまして。即ち1/35以下のスケールのフィギュア、特に言うのなら30mmクラスのフィギュアを塗れる気がしないわけで御座います。無論「塗った事が無い」わけではなく、2mc第25回にはWH40Kのスペースマリーンを塗って出していたりもしますし、右みたいな塗りかけのフィギュアが無いわけでもない。ただ、それでいて、こう、なんというか、「出来る」という掴みが無い。それでいてこのジャンルは単価も安ければ出来の良いフィギュアが溢れていたりでそのまま無視するにはあまりに惜しい。だからといってコミュニティ的な繋がりもあまりになく、ノウハウ的な知識も今一足りない。さぁそんな時に頼る物と言えば何だ、そうだ、それは本だ!という事で、今回は英国Foundry Miniatures社刊行のハウツー本をご紹介。この本、それはそれは長い歴史があるながら今一取っ付き辛い雰囲気を湛えるメタルフィギュアの世界に入って行くには、恐らく最良の部類に入るガイド本なのではないかと思うわけです。

大型本だけあってコンテンツも33セクションと膨大。以下目次を抜粋すると、

  1. Introduction – So who is Kevin Dallimore anyway?
  2. The Model Soldier Hobby ? A brief explanation of what it’s all about and why we do it
  3. Equipment ? Making sure you get the right gear for the job
  4. Preparing the Foundations ? Some hints and tips on what to do before you start painting
  5. Get Painting: The One-Colour Method ? How to get started with a quick and simple paint job
  6. Stage Painting ? Basic painting shown in stages on a Prussian Fusilier
  7. Stage Painting ? Basic painting shown in stages on fantasy and science fiction models
  8. Stage Painting ? Basic painting for armour and shields shown in stages on a Roman
  9. The Next Step ? The Two-Colour Method ? Using two shades of colours on a model, plus how to make flags and paint horses
  10. Stage Painting ? Two-Colour painting shown in stages on a Prussian fusilier
  11. Stage Painting ? Experimenting with flesh tones in this two-colour painting guide, shown in stages on an African Mercenary
  12. Designing and Painting a Shield ? How to achieve a great looking shield with Martin Buck’s straightforward method
  13. Advanced Painting: The Three-Colour Method ? The Full paint job using three shades of colours, plus how to paint horses using oils
  14. Stage Painting ? Advanced three-colour painting shown in stages on a Prussin Fusilier
  15. Stage Painting ? Advanced three-colour painting shown in stages on a fantasy Dwarf
  16. Stage Painting ? How to paint green flesh in this three-colour painting guide, shown in stages on a fantasy War Orc
  17. Stage Painting ? Advanced three-colour painting shown in stages on a great big Ogre
  18. Interlude ? A selection of some of Kevin’s favourite photographs of painted Foundry models
  19. Painting Three-Colour Shields ? A stage by stage guide to painting shield designs and using transfers
  20. Painting From A White Undercoat ? Martin Buck paints red and uses a white undercoat, shown in stages on a Spartan
  21. Master Class ? Adding that little bit extra to your models
  22. Stage Painting ? Advanced three-colour painting of darker flesh and bronze shown in stages on a Spartan Hoplite
  23. Stage Painting ? Advanced three-colour painting of lighter flesh and chainmail shown in stages of Viking
  24. Varnishing and Basing ? Detailing the enjoyable subject of basing and the disturbing subject of varnishing, including a feature on dioramas
  25. Guest Painters ? Model painters Andrew Taylor, Jim Bowen, Tom Weiss and Chris Steadman show their work and explain how they get such stunning results
  26. Conversions ? How to personalise your models, from paint jobs to head swaps
  27. Kevin’s Victorian Conversions ? Kevin converts into “The Ripper”
  28. Painting Vehicles ? Constructing, painting and detailing vehicles
  29. Painting Buildings ? Steve Mussared shows us his fast and effective method for painting buildings
  30. Parting Words and Conclusions ? Painting competitions, photography and thanks
  31. Stage Painting Judge Dredd ? Three- and four-colour painting shown in stages on ‘Old Stony Face’ himself
  32. Holmes & Watson ? Kevin paints the great detective
  33. Foundry Paints, Tools, And Transfers ? Handy reference pages showing the full range of colour in the Foundry Paint System

かくの如し。

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感心したのは、本書が全くの初心者を相手にして、それこそ筆に含ませる塗料の量といった、極々基本的なポイントから解説を初める事。通り一片の技術書とは違って、ミニチュアなんか始めて見た、始めて触った、という人に向けての情報キチンと含まれているのはなんとも素敵な事じゃないかな。以前に紹介したオスプレイのModelling Scale Figures的と言うのかな。無経験の人に対しての説明から入る。 文章とイラストの配分も良いね。一目でわかるし、より詳しく知りたければキッチリ教えてくれるテキストも用意されている。小難しい哲学やら技術やら何やらよりも、まず「こうするのだ」っていう形をイラストで見せてくれるのは、全くの初心者だけでなくある程度腕のある人でも有り難い物なんじゃないかと思うんだけれどどうだろう。 ザっと目を通した限りでは英文もそんなに小難しい言葉では書いてない感じ。こういう解説書が日本語に少ないのはとても悲しい事なんじゃないかな、と思ってしまうわけでございます。ガンプラは既にガンプラという一つの趣味なので除くとして、模型趣味、とりわけスケールモデルやらフィギュアペインティングというのはどうにも日本では間口が狭いように思えてしまってならない昨今、こういう形式のハウツーが増えたら、少しは状況も変わるんじゃないかなぁ。

005読んでいて一瞬ウッ、と思ってしまったのはこのイラスト。100の言葉よりも遥かに雄弁に、塗装中の姿勢はどうあるべきかを語るこの二枚に比較図。そう、そうなんだよ。どうしても右のWrongのようになってしまうんだ、塗装に熱中してくると。このイラスト二枚の持つ真面目な注意、そして絵柄に見える軽い諧謔。フィギュアペインティングを楽しむ人間なら必ず身に覚えがあるであろうこの状況をサラリとイラストで解説してみせるこの本のポテンシャルの高さ。良く見るとWrongの方の画像は足元に塗料ボトルが転がってたりと色々細かい情報も入ってるんだな。

013全体を通して構成として目立つのは、その恐しいまでのステップバイステップ形式に対するこだわり。全編最初から最後までステップバイステップに次ぐステップバイステップの嵐。上記33個のコンテンツの内22個がステップバイステップという徹底ぶり。題材が30mmという極小サイズのフィギュアだからなのか、ほぼ原寸大でページを埋め尽すステップバイステップの嵐は本当に有り難い。←のローマ兵のステップバイステップでもかる通り、サフ吹きのステップも省略せず乗せてくる心遣いがニクい。実にニクい。1/35フィギュアの書き込みを見慣れている目には荒く見えるけれど、実は本の中では3種類の塗装メソッドが紹介されていて、その塗装技法のうち最も簡単なOne-Colour Methodでの塗装方なのである程度はしょうがない。とはいえ、30mmフィギュアである事を考えたら十分凄いんだけどさ。 盾の模様も書いてしまっている事に注目。サラっとやってるけど割ととんでもない事やってるんじゃないかしら。 でも本書の扱いとしては、まずはここから、さぁやってみようって感じ。

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この本は本当に写真の使い方が上手いよね。上に書いた通り徹底したステップバイステップで、それぞれの工程を見せ、いかにフィギュアが塗りあがって行くかを見せる。そして前述の通り3種類の、それぞれ難易度が段階的に上がっていく塗装メソッドを全部説明した後に、三種類のメソッドの完成品、それも同一フィギュアを塗った物をカッチリと一ページに同縮尺で並べて見せる情報量の差が露骨に見えるから、これだけの違いが出る、と誰にでも理解できる。すると、「次こそは」もう一段階上のメソッドで塗ってみよう、って気になる。初めて塗る人も既に経験がある人も、次へのモチベーションに繋るような構成にしてあるのは本当に見事だと思う。そしてこの構成はどのレベルの人の塗装もけなしてないよね。一番簡単でシンプルなOne-Colour methodであっても、その技法をキチンと解説してから次のレベルの塗装法に進む事で、まだその技法しかできないレベルの人をexcludeせず、また次のステップへと導こうとするこの姿勢は素敵だね。

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勿論クリーチャー系の造形も多いメタルフィギュアの解説書だけあって、こんな感じの、所謂普通の肌色からかけ離れた色調のフィギュアのステップバイステップもあり。30mm級フィギュアをここまで拡大して尚鮮やかに見えるペインターの技術も凄いし、それをキッチリと解説して、これが絶対に出来る、というお膳立てまでするこの本も凄い。横山先生のMa.K.モデリングブックだったかな、「技法は全部教えよう。上手く行かなきゃそれはただ経験がたりないだけ」っていうような事を書いていたのは。実際この本のスタンスはそれに近い感じ。上手く行くようにする為の情報は全て出す。上手く行かないのなら、それは腕が足りないのではなく慣れていないだけ、そういう事を言いたいだろう、と思わせる雰囲気が本全体にある。

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そして勿論作品のギャラリーもある。こういう風に塗れるようになるのだ、とモチベーションを提供する源泉となる完成品の写真がキチンと含まれている。それもジャンルを問わず、こういった現用特殊部隊の写真もあれば、同社の膨大なラインナップを活かした、ジャッジドレッドすら含む完成品の写真がちゃんとある。これが嬉しい。つまり究極的には、この本一冊で必要な情報は全て提供するというスタンスなんだな。

総評としては、素晴しい、マストバイと言って差し支えない一冊オスプレイのModelling Scale Figuresが「30mm、52mmその他諸々のフィギュアペインティング」という物自体に対しての入門書ならば、この本は30mmというスケールヘの、一ジャンルへの入門書にして解説書と言った所かしら。その微に入り細に入った解説はまったくの初心者も、何となく塗ってきたモデラーも、そのどちらにも有益に違いないんじゃないかな。偏執的とも言えるステップバイステップの嵐は100ページの言葉で語られるよりも的確で情報量は多い読み終わった後で手が動かしたくなる本という意味で、矢張り横山先生のMa.K.モデリングブックと同じ系統に分類できると思ううんだ。唯一難点といえば、これがFoundry Miniatureという模型会社から発売されている都合上、塗料が殆ど全て同社の塗料で解説されている点。とはいえその写真は雄弁で、且つ解像度も十分だから、他の塗料への転用は楽そう。そんなわけで万難を廃して買って、なおかつ損をしない書籍であると断言します。買え!

じゃあ、今日はここまで。