カメラ趣味を持っていると欲しいレンズ欲しいカメラはゴロゴロしてるわけですが、その中でも色々な逸話を持ってるが為に欲しいレンズっていう物が御座いまして。所謂ロマン枠と言いますか、手前にとっては日本光学(ニコン)のNikkor P.C 8.5cm F2ってレンズが正にそういう枠で御座いました。
詳細なエピソードはニコンがウェブで公開しているニッコール千夜一夜でご覧頂きたいのですが、要するに戦後日本光学躍進の切っ掛けになったレンズという訳で、旭光学党の手前ですら憧れを持っていたレンズでございました。特に上記ウェブサイト内でも語られる以下引用の下り。
1950年のことである。同じくLIFE誌のカメラマンであった三木淳(みきじゅん)氏が、たまたま遊びに来ていた友人の写真家の持っていたNikkor 8.5cmを借りてダンカン氏のスナップを撮っていた。その場では「へぇ日本製のゾナーかい」とあまり興味を示さなかったダンカン氏であったが、後日その写真を引き伸ばして見せたところ、氏の表情が急に変わり、ルーペを持ち出してその写真をチェックしはじめた。「すごい!シャープだ。この会社にすぐ行こう!」
“ニッコール千夜一夜 第三十六夜 Nikkor P・C 8.5cm F2”, http://www.nikon-image.com/enjoy/life/historynikkor/0036/index.html, 2018年6月19日アクセス
このロマン、このカタルシス。例えどんな背景があったとしても、こういう下りにこそ手前は、製造業の片隅に居る人間として夢を見るのです。
ところが、実際にこのレンズを手に入れようとするとマウントって物が敵になりまして。当たり前ながらニッコールレンズなのでニコンS系列用かライカ用ってのがメジャーな所。現実問題ニコンS系はそもそも家にボディがない上とある方が丁寧にOHして下さったContax IIがあるのであまり食指が動かない。勿論ニコンSPを使ってみたいという気持はある物のその値段を見ると他に回した方が余程幸せになる気がする。じゃあライカ用だ、と思っても、手前がもともと中望遠大好きである為に手元に誉れのライツカナダ製Summicron 90mm F2とライツのElmarit 90mm F2.8がある。なんだったら状態が多少悪いけれどソ連のJupiter-9 85mm F2だってある。そこにあえてロマンの為にNikkor P.C 8.5cmを生やすのも……と悩んでいたところ、ふとこのニコンレンズのContax用が存在する事を知りまして。本命はトリオター85mm F4が欲しいけれども、良い出会いがあったら買おう買おうと心に決めたのです。
それから買えそうな機会に巡り合う事数回、数年。そこそこのお値段はする物の物凄い美品がFlashback Cameraさんに出ていたのを見つけてしまい。えぇいコレも何かの縁、同じ飛び降りるなら華の清水から降りてこそ、とか思いつつ買ってしまいました。
ああもう格好良い、という表現しかできないこの出で立ち。対称性の高いフォルムによる均整美の目立つContax IIに猛烈な違和感を足すファインダーマスク543/7が僅かにそのラインを崩し、その中心に存在を誇示するが如く存在するNikkor P.C 8.5cmの大きな前玉!ああ格好良い。噫素敵、と意中の人の立ち振舞に黄色い声を投げかける女学生が如く心で叫ぶのです。
写りも期待通りと言いますか、開放近辺では柔らかい。背景のボケが歪んでいるのは御愛嬌。でもなんというか、良い、というよりも佳い描写だと思いませんか。その他の作例はFlickrご覧下さいまし。
じゃあ、今日はここまで。