カメラ界隈を指して沼と呼ぶことが多々ありますが、あれも沼これも沼、沼沼沼といったところで一番深い沼は標準レンズたるの50 mm 前後のレンズに関するところなのではないでしょうか。 各メーカーそれぞれキレれたものイマイチなもの、冴えないものあるいは最早何だかわからないもの。そんな有象無象がひしめいているのが50 mm 界隈で、気付けば同じようなスペックが手元に増える事増えること。 底の見えない沼に銭を投げ入れ続ける我等は、果たして穴を掘っては埋めさせられたというソビエトの囚人達か歩いは賽の河原の石積みか。
さて特にその50ミリの沼が深い深い深いのは、疑うことなくライカ周りでしょう。各メーカーがほぼユニバーサルマウント扱いの如くライカ用 (LTM)にレンズを供給していたが故に、ニコン/キヤノン/ミノルタ、あるいはレンジファインダーのイメージがないペンタックスまで、正にユニバーサルマウントと呼ぶにふさわしいほど世界中のメーカーがレンズを供給しておりました
当然日本における写真史の中でその名を刻まれるべき企業の一つである富士フイルムもライカマウントにレンズを供給していたわけで。厳密に言うとライカというよりも日本製のライカコピーであるLeotax用であったようですが、まあいずれにせよレンズを供給していたわけです。その中にも当然50ミリが何本かありまして。伝説の名前になってしまっている沈胴のCristar50/2や、同様のスペックで固定鏡胴のフジノン50/2なんかはよく名前を聞きます。
で、その中で言及されることは少ない 廉価版末弟と呼べる部分に50 mm F2.8 というスペックのレンズがありまして 長らく探した末にこれを入手したのでその良さにして語りたい是非語りたい語って語って何とかこのいまいち人気のないレンズに光を少しでも当ててしまいたい。なんかこういうスタンスをよく取っているわけですが、とにかく手前はそう思うわけです。
ガワは今日の一眼レフ用レンズに見慣れた目からは実に小型ですが、ライカ用としては標準と言ったところ。しかし均整の取れた造形を持つ銀の鏡胴を黒のピントリングと絞りリングが作り出す鉢巻によってキリリと引き締め、レンズを覆うやや薄めのアンバー色をしたコーティングを見れば、写りの良さを期待したくなる物。それに加えて銘板に刻まれた”Fuji Photo Film CO. XXXXXX Fujinon L”の文字が醸しだす絶対の安心感。
そしてその写りは期待を裏切らない物としか言えない見事な物なのです。発色のパンチで知られるLeica M9がボディであるせいは間違いなくあるとは言え、空の鮮やかな青のみならず深みのある葉の赤や緑を艶かしく描き出し、それでいて所謂ベッタリとした味を微塵も感じさせない描写。この画に僕は酷くVelviaを感じたのです。
では色だけのレ ンズかと言えばさにあらず。確か開放に近い状態での撮影だったように記憶しておりますが、合焦している中央部門の解像度の高い事。古いレンズらしく周囲はやや滲んでいる物の、流れが殆んど見られないのは流石というところでしょう。やはり画面左上の黄色の鮮やかさと、後ろに透ける空の青さの階調に目を惹かれます。
一枚目あげた葉っぱの写真もそうですが絞り込めば(当たり前と言えば当たり前とはいえ)キリリと写ります。遠景描写もお手の物。矢張り発色の良さにこそ心が惹かれる。
ややハイキー気味に。どちらかと言えばハイよりローに振って、ドロドロした濃い色目を出すのが似合うようなレンズのような気も致します。
暗いレンズは良く写る、なんて言われる事が御座いまして。そのロジックが正しいとすれば、ハイエンドの50/2よりも廉価版たる50/2.8の本レンズの方が、余程蛮用に耐える道具足りえるのではないかと思うのです。見た目良し、写り良し。携帯性も良しで三方良し。ハイエンド以外のレンズの常として入手が少し面倒臭いですが、何とか入手して欲しいと思うのです。
じゃあ、今日はここまで。